尊く美しいとしているのは、主人公多々良の視点ではそのように見えているというお話で、それだけではない実力だけがものをいうシビアな世界という側面についても存分に語られています。
この漫画は没入度が高く、熱いスポーツ漫画であるとともに、それぞれの人物のダンス観が描かれ、人同士の交流の中で主人公が次第にダンサーとなっていく過程が描かれるという万人向けな作品となっています。特に12巻からはテーマが深くなっていくので大人の方が楽しめる作品です。
題名:ボールルームへようこそ(12巻~続刊 2023年01月現在)
作者:竹内 友
オススメ度:★★★★★(98点)
属性タグ:ダンススポーツ、成長し続ける主人公、地に足のついたキャラクター、凄まじい画力、作者が経験者、リアリティのある作品、心情描写が秀逸、2017年アニメ化、マンガ大賞2013で2位
謎の導入
皆さんは、「好きなマンガは何か?」と聞かれた時、非常に困りませんか?
この受け答え次第で己の存在を回答したと言っても過言ではないと思います。いやだって、、
「性癖人狼」が始まった……ってなりませんか?
ここでもし「なろう系」を回答して滑ってしまったら……、かと言ってメジャー作品での牽制球の投げ合いという不毛な腹の探り合いが行われるとかも、何というかスマートではありません。
そんな時、最強の速球が「ボールルームへようこそ」です。
万人向け、アニメ化もしていてある程度メジャーと言っても良い。その上、大体これを面白いと挙げれば分かってるな感が出せます(どういう事だ……)
そんな訳で、ボールルームへようこそを面白いと挙げられるマンガ好きは、こいつ訓練されてるな?と思わせることが可能だという事です(?)。知ってる人は知ってるけど、思ったより知られていないがめちゃくちゃ面白いコミックスを取り上げて行くのがこのサイトの主旨になります。
この漫画はトップクラスに面白いと胸を張って言えるもので、個人的にはこの漫画が連載終了するまでは何としても生きなければと思う人生の目的の一つでもあります。
作品紹介・推しポイント
- 作品紹介
主人公の多々良は、12巻で”ダンスを始めたきっかけ”として以下のようなことを言っています。
ボールルームへようこそ 12巻 P.57 Heat.60 優しい人 より
物語始まり当初、中学生だった多々良は何にも興味を持てず、得意なものもなく無為に日々を過ごしていました。そんな彼が偶然に人を通じてダンスと出会います。最初はただ憧れた人たちに関わりたい、ただ彼らが居る地へ向かって走りたいという気持ちだけでダンスに関わり、次第にダンス自体に真剣に向き合っていくこととなります。
何も知らないところから、段々とダンサー然と成長していく主人公は好感を持てるとともに、どこか主人公自身に対して憧憬の念を抱かされます。
中学生編ではダンスとの出会いと憧れた人の組解消(セパレート)を賭けた試合、それを通じてのダンスの楽しさという部分を存分に描き、高校生編では千夏との出会いから都民大会での戦いを描きます。
都民大会後はダンスとの向き合い方をより深く掘り下げていくという流れになって、現在の連載に繋がって来るという展開になっています。どの内容も熱く、またそれぞれの登場人物の深掘り描写が多く、非常に没入感の高い内容となっています。気づいたら読み耽っていたというのは、面白い漫画あるあるですが、この漫画も多分に漏れずその対象となっています。
- 推しポイント
まず途轍もない画力が挙げられます。
ただ一枚絵が上手いというだけでなく、ダンスなので複数コマを含めた動きが重要となるのですが、この表現が驚嘆の一言です。恐らく誰もが違和感なく、ダンスのダイナミックさを感じながら読み進められると思います。出典を探したのが見つからなかったのですが作者がこの視線の導線を上手く描くなどを「読者との勝負」と表現していましたが、ここに対する熱量を実感することが出来るレベルです。
※一番近しい表現は公式ファンブックのインタビューですが、もっと直接的な表現をされていた事があった記憶があります
下記作者のTwitterにて、 一枚目は一枚絵イラスト的な要素ですが、二枚目はまさにダイナミックな動きを表現する漫画ならではの表現となっています。
また推しポイントとしては、千夏が本当に良いキャラをしています。
初出のタイミングはなんだコイツは……という感じでしたが、最初感じ悪くて後からどんどん良いキャラで好きになっていくこの現象は、どっかで見たことあるぞ。そう、鬼滅の刃の柱たちだ。この漫画の登場キャラクターはクセが強くて最初感じ悪いのに、いつの間にか好きになっているんだ。なんでだー!
作者がTwitterであげているこの千夏、千夏っぽさが凄く良く出てて、めちゃくちゃ好きです。
そして最大の推しポイントは(まだ続くのか)、12巻で多々良が心情を吐露するシーンです。
現状ここが一番好きなシーンです。今までの全てがこのシーンに帰結していると言っても過言ではありません。表題にした、尊く美しいダンススポーツという世界観を多々良によって語られます。そしてそれに向き合いきれてないダンスに対する申し訳なさを感じている多々良の心情を吐露するこのシーンが最高に美しいので、是非とも1巻から12巻まで読んで欲しいです。
でもそんな細かいことはどうでもいいんです。
「ボールルームへようこそ」への取っ掛かりは何でも良いんです!
安易に手のエロさに惹かれて買ってしまっても良いんです!
ありがとうございます!!
競技者だったからこそ魅せることのできる世界
作者は大学時代にラテン専攻の競技者であったことが巻末に記載されています。
恐らく登場人物にはモデルが居るのだと思われますが、それぞれの人物像が地に足をついており、それぞれの競技者としての意識や価値観が明確に決められて描かれています。
恐らくこの良さを完璧に引き出しているのが、12巻の多々良が倉内さんに心情を吐露するシーンです。
僕の動機はいつだってダンスじゃなくて人でした。
ボールルームへようこそ 12巻 P.58 Heat.60 優しい人 より
だから僕は困ってしまったんですよね。それで僕はなんだか、自分が関わってはいけないものに手を出してしまった様な気持ちになりました。
僕という人間は他人が眩しいから考え無しに近づいて、自分自身では何の判断もできない半端者なんです。
ダンスそのものに向き合えば向き合う程、ダンスに対して申し訳なさが膨らんで、なのに、どんどんダンスのことが好きになっていく……
「僕なんかが好きになってしまってごめんなさい」ってなります……
非常に多々良らしい純粋な気持ちの表れであり、かつ作者が競技者だからこそ、それぞれの登場人物のダンスに対するダンス観が明確になっていて、多々良がその人々との関わり合いの中でここに辿り着くというのがすべて繋がっているこのシーンが途轍もなく美しく見えます。
このシーンの感動を読む為に、1巻から読んで損は無いですね。
またこのシーンの吐露相手として登場する倉内さんはラストエピソードまで関わる人たちと作者自身が公言をしており、非常に話にも深みが出て来て楽しみなストーリーです。この人たちとの関わりの中で、さらに多々良の内面が言語化されていくのでしょう。
ここら辺のそれぞれの心情の言語化がとても素晴らしく、今後も非常に期待が出来る内容になっています。
ストーリー紹介(若干のネタバレ有り)
作者が11巻の巻末に以下のようなコメントがあります。
この物語は、1~4巻「競技ダンスの種目紹介」に始まり、6~10巻「パートナーとのリレーションシップ」を経て、11巻から先は「ダンサー達それぞれの進路」へと舵を切ります。
ボールルームへようこそ 11巻 カバー巻末より
作者自身がこのように分解をしているので、それ以上の分解は無いと思いますが、ストーリー進行に沿ってそれぞれ紹介をしていきたいと思います。
- ダンスとの出会い編(1~2巻)
後から読むと、作者は社交ダンスとはなんぞや、競技ダンスとはなんぞやというのを説明する為にかなり思い切った事をやっているなと思わされます。ただ殆どの読者は全く馴染みのないスポーツなので、本当に何も知らない人向けに漫画としての楽しさを出しながら上手く描いています。
仙石さんとの出会い、雫との出会い、兵藤との出会い。
多々良はダンサーと出会うことで、ダンサーに憧れます。彼らに近づく為に多々良はただただ彼らに駆け寄っていくというお話が1巻です。
2巻からは賀寿と真子ちゃんが登場し、兵藤が怪我で居ない間に本来は兵藤のパートナーである雫と組みたいと賀寿が申し出たことで波乱の展開に。主人公である多々良は、雫はダンサーとしての憧れであり、兵藤との組解消(セパレート)に納得が行かず、賀寿のパートナーである真子ちゃんと組んで勝負を申し込みます。天平杯という非公式の大会で勝負をすることが決まり、多々良と真子ちゃんが勝てば賀寿と雫が組むことはなくなります。多々良が大会できちんと成績を出す、そして勝つという明確な目標を得た事で、初めてダンサーとしての自覚が芽生えて来るという一連の流れは見事でした。
- 天平杯編(3~4巻)
3巻からは天平杯の競技が始まり、作者の言う通り内容的には無知な読者に競技ダンスの種目を紹介していく形になります。まだダンサーとしてはよちよち歩きのはずの主人公が持てるものを全て出して戦う姿もそうですが、そうまでして勝とうという動機付けが上手く描かれています。
すべては憧れたダンサーの為に。多々良はいつだって人の為にダンスをしていました。
4巻で天平杯編も決着がつきます。どのような形になったのか。初心者の多々良が賀寿と雫というベテランに対してジャイアントキリングを成し遂げたのか。是非お手に取って見てみてください。
ちょうど自分が読み始めたのが2巻が発売された頃の2012年夏頃からでした。
4巻が発売された2013年では、このマンガがすごい!の9位に選ばれ、2013年のマンガ大賞では2位となり、かなり期待をされていたのですが、正直思ったよりは名前が上がらずに悲しい思いをしました。
- 千夏との出会い編(5~6巻)
5巻からは高校生になり、多々良は賀寿と同じ高校に通うようになります。
雫が海外留学を取り止めたことで、1年以内にランキングを駆け上がってグランプリという同じ土俵まで来れれば試合が出来ることとなり、多々良は発奮してパートナーを探し、グランプリを目指します。
高校の前の席に座る千夏との初邂逅は印象最悪でしたが、ダンスを辞めようとしている千夏を最終的に多々良が誘ってパートナーとなることが決まりました。
6巻からは千夏というパートナーと、どのような形にダンスが組みあがるのかという試行錯誤をし続ける話になっていきます。また仙石さんと出会った”ダンス教室”を卒業し、ダンス競技者としてのスクールへ通う事を決意し、本格的な競技者としての道へ歩んでいくこととなります。
6巻では、釘宮さんという非常に好きな人は好きというキャラクターが登場します。メルスト民にしか通じませんが、スティーノスさんみたいなところがある人です。
- じゃじゃ馬ならし編(7~8巻)
7巻は千夏(じゃじゃ馬)を乗りこなして見せると誓った多々良の奮闘が描かれますが、実態として多々良がやろうとしている事に千夏が何とか応えようとついていっている状況で、多々良自身は千夏よりもグランプリに出て雫と勝負するという目標の方に意識が言っていて千夏ときちんと向き合えてはいませんでした。7巻の最後はそのすれ違いもあってか、大喧嘩をしてしまい、8巻に突入します。
8巻では兵藤と雫の働きかけによって、多々良と千夏が互いに向き合っていく事になります。この時に多々良が憧れの存在である雫に言った「印象に残りたくて……」という言葉。これが後に繋がって来るのですが、これらもすべて最終的に12巻の「僕の動機はいつだってダンスじゃなくて人でした」に帰結してくるところになります。本当に話の構成がよく出来ています。
一応作者は、話を開始する時点で主要な登場人物の物語最後にどうなるかまで考えて書いていると言っていました。ここら辺の構成の妙は、本当に素晴らしいです。
- 都民大会編(9~10巻)
9巻では都民大会が始まりますが、前巻で実は釘宮さんが都民大会に出ることが決まっており、実質の優勝者が決定しているような状況でした。またこの都民大会を優勝すれば兵藤と雫が出る三笠宮杯に同じく出場をしても良いと先生から言われていた事もあって、多々良としては絶望的な大会となっていました。さらにじゃじゃ馬ならしは難航しており、兵藤の介入もあって余計にややこしくなっていきますが、少しずつ少しずつ大会の中で多々良と千夏が組み上がっていきます。
10巻では釘宮さんという存在にもフォーカスしつつ、それぞれの決勝戦にかける想いと進化しながら組み上がっていく多々良と千夏、伝統と進化の真っ向勝負が描かれます。読む時にドキドキが止まらなくなり、ページを捲るのが止められなくなる。でもきちんと描かれている全てを読み込みたい。でも早く読みたいというジレンマに陥ります。こういう風に思わせてくれる漫画は非常に希少です。
ちょうどこの連載をしていた頃、2017年夏からボールルームへようこそはアニメ化しており、2クールでこの都民大会編まできっちり描き切りました。圧倒的に漫画の方が良いのですが、アニメで見たい方はそちらもどうぞ。
小噺ですが、ボールルームへようこそがアニメ化する一年前に”4月は君の嘘”という漫画がアニメ化し、アニメと連動して本誌でも最終話を載せるという形式をやっていたので、それと同じことをしようと試みていたと思うのですが、ボールルームへようこその作者である竹内友先生は非常に病気でお休みする機会が多く、結果としてアニメで先の展開をやってから、本誌が後追いしたという経緯がありました。(※本誌が最終回でなくて良かった)
いつまでも待つので、描き切ってくれることを願います。。
- それぞれの進路編(11巻~ )
11巻の冒頭で都民大会の結果が出ます。どのような帰結を迎えるかは、是非コミックスを読んでみてください。ここからはこの都民大会で得られたもの、千夏との嚙み合わせを感じたダンスを使ってどのように進むべきか、道標だったものが道標足りえなくなったことで、多々良は道を見失い始めます。
そんな中、釘宮さんが鎌倉のBresというダンススタジオを紹介してくれたことで、新たな場所に導かれます。
12巻は鎌倉のBresで倉内さんや袴田さんと出会い、多々良自身がどのような道を進むべきか自分と向き合い始めるきっかけを得ます。自分が散々こちらの記事で紹介している12巻の多々良の心情の吐露シーンがここで出てきます。全てはここに繋がり、そしてまた人に導かれるという体験をしていきます。
- オマケ
ボールルームへようこそには、公式ファンブックがあり、現在は紙の単行本はプレミアがついてしまっているので、電子書籍で購入することをお勧めしています。
インタビュー記事や、細かい設定の内容まで載っているので、ボールルームへようこそファンの方は是非読んで欲しい内容です。
他にも原画展を実施するなど、こういうイベントを実施してくれるのは本当にありがたいですね。
特にこのミニ色紙の特典が嬉しくて、4つも集めてしまいました。
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